雨木シュウスケの2作目となるライトノベル。主に文庫本で書き下ろされる本編、『ドラゴンマガジン』に掲載される短編、短編集で書き下ろされる中編で構成される。謎の物質「汚染物質」が蔓延して人が住めなくなった大地に「レギオス」と呼ばれる無数の移動する都市が行き交う遥か未来の世界を舞台に、都市を守るために戦う「武芸者」としての道に挫折して故郷の都市を離れ、新たな都市で不本意ながら再び武芸者としての道を歩むことになった主人公の少年レイフォンが、仲間との交流や様々な事件を通じて自身の本質や生きる道を探る姿を描く。
現在よりも技術の進んだ遥か未来の世界を舞台としつつも、その根幹には精霊や魔法のような技術、怪物などファンタジーの要素が据えられている。また、都市全体が学生のために存在する「学園都市」が主な舞台となり、ジャンルは「学園ファンタジー」「学園アクションファンタジー」「最強学園ファンタジー」などと銘打たれることが多い。不器用ながらも自らの道を模索する少年少女たちの姿と、徐々に明らかになる汚染された世界のルーツを物語の主軸とし、特殊能力を持った武芸者同士や巨大な怪物「汚染獣」とのアクションシーンや、レイフォンと彼を取り巻く少女たちとの恋愛模様が物語に華を添える。
沿革・評価
2006年3月に文庫本第1巻が刊行された。以降、文庫本3巻までが隔月ペースで刊行され、月刊ドラゴンマガジン(現ドラゴンマガジン)2006年10月号から不定期で短編の連載が開始された。文庫本の累計発行部数は9巻刊行時点で115万部[1]、11巻刊行時点で200万部を超えた[2]。2007年に開催されたライトノベルアワードでは学園部門賞を受賞した[3]。
漫画、ラジオドラマ、ドラマCD、テレビアニメと、様々なジャンルでメディアミックス展開されている。また、2007年7月から2008年9月にかけては、同作者による本作の過去の世界を舞台にしたSF小説『レジェンド・オブ・レギオス』がStyle-Fから刊行された。これらについての詳細は後述。
舞台背景
世界中の大気と大地には、「汚染物質」と呼ばれる謎の物質が充満している。ほとんどの生物を死に至らしめるこの物質の蔓延により、自然界ではほぼ全ての動植物が死に絶え、大地は水が干上がって乾燥し、全世界が常に強風の吹き荒れる荒野と化している。ほぼ唯一、「汚染獣」と呼ばれる異形の生物だけが汚染された世界に適応し、繁殖を繰り返して世界中に生息している。世界が汚染される以前の歴史はほとんど忘れ去られており、汚染物質がいつどのようにして発生したのかも解明されていない。
自律型移動都市(レギオス)
人類は汚染物質の中で生きることができないため、過去の錬金術師達が残した「自律型移動都市(レギオス)」と呼ばれる都市に住み、汚染物質や汚染獣から身を守っている。自律型移動都市は都市の土台を金属製の多足が支えるような構造になっており、汚染獣を回避するように移動し続ける。都市の外周は汚染物質を遮るエアフィルター(空気の膜)に覆われており、この世界において人間を含めた汚染獣以外の生物にとってほとんど唯一の生活の場である。建造技術は失われており、現状、新たに自律型移動都市を建造することは不可能。
汚染された大地には非常に多くの都市が行き交っているが、大気中に充満する汚染物質が無線通信を遮ってしまい、都市と都市を結ぶ交通や通信の手段は危険で時間も掛かる「放浪バス」に限られる。そのため、各都市同士のコミュニケーションは非常に希薄だが、その分ほとんどの都市は自給自足が成り立っており、大抵の人間は生まれた都市から外に出ること無く一生を終える。また、都市ごとに独自の文化が栄えていることも珍しくない。都市自体にも幾つかのタイプがあり、生活に必要な全ての機能を備えた標準型や、特定の機能に特化した都市もある(特化型の都市でも自給自足は成り立っている)。
世界の汚染以降に発掘されるようになった金属「セルニウム」を動力とする。セルニウムは世界中の地面から採掘できるが、動力源としてはある程度の質と量が求められ、都市は高純度のセルニウムが埋蔵されている鉱山を保有して定期的に補給を行う。都市の移動半径は保有する鉱山を中心としたものといわれており、保有する鉱山が多いほど移動半径も広がり、地域の移動による季節の変化も訪れる。また、都市は2年に1度の周期で「戦争期」を迎え、鉱山の保有権を賭けて他の都市と戦争を行う。実際に戦うのは都市の住人同士だが、これに負けた都市は保有する鉱山を1つ奪われる。当然、鉱山を全て失った都市は以後の補給が不可能となり、いずれあらゆる機能が停止する。なお、都市は自身と同型の都市としか戦争を行わない。
電子精霊
自律型移動都市はプログラムされたAIでは無く、都市そのものが「意思」を持つことで自律稼動している。都市の意思は時折具現化することがあり、具現化した都市の意思を「電子精霊」と呼ぶ。具現化した電子精霊の姿は都市によって異なり、人間の形をしているとは限らない。自律型移動都市と同様、その起源は謎に包まれている。
セルニウムの供給が断たれるなどして都市機能が完全に停止すると、電子精霊も死んでしまう。しかし、汚染獣に都市を破壊された電子精霊が性質変化を起こして単独で存在し続ける場合があり、そうした電子精霊は「廃貴族」と呼ばれる。廃貴族は汚染獣への憎悪に狂った存在となり、失った都市に代わる宿主を求め、宿主となったものを支配し汚染獣への戦いへと向かわせる。武芸者が廃貴族に憑依されると、通常時とは比べ物にならない莫大な量の剄を放つようになるが、多くの場合は廃貴族に意識を飲み込まれてしまう。
放浪バス
都市間の移動に使用される「放浪バス」は、金属多足で移動する乗り物である。常に動き回る自律型移動都市全ての正確な位置を把握しているのは、「交通都市ヨルテム」と呼ばれる都市の意思のみであるため、放浪バスは最終目的地に関係なく必ずヨルテムを経由する。また、汚染獣の襲撃を避けるために遠回りや停止することも少なくないため、目的の都市に到着するまでに数か月掛かることもある。これらの理由から都市間移動は不便であると同時に危険で、生まれた都市を出ようとする者はあまりいないが、一方で放浪バスで各都市を渡り歩く旅人や、都市間の交易を目的としたキャラバンも存在する。
学園都市
機能特化型都市の1つに、教育機関として特化した機能を持つ「学園都市」がある。学園都市は住人の大半が学生で大人がほとんどおらず、都市の機能も全て学生によって管理、運営され、教育に関しても上級生が下級生の授業を受け持つ。その性質上、人の入れ代わりが激しくあらゆる分野でベテランを欠くという欠点を持ち、基本的に汚染獣を避ける都市の意思の中でも特に学園都市の意思は汚染獣に対し細心の注意を払う。基本的には通常の都市同様の独立した存在だが、多くの学園都市は「学園都市連盟」と言う組織に加盟し、そのバックアップを受けている。
学園都市では、学園都市連盟主催の武芸大会と言う交流試合の形式で戦争を行う。相手都市の都市旗の奪取を勝敗の条件とし、使用される武器は全て殺傷力を減退させる安全装置を掛けた状態で戦う。「学生らしい健全な戦い」を名目にこのような体裁を取っており、人的被害も少なく済むが、勝敗が都市の寿命を左右すると言う結果は標準型の都市で行われる戦争と変わらない。
剄と武芸者
人間は生きているだけで「剄」(けい)と呼ばれるエネルギーを発している。本来、剄は生命活動の中で余剰エネルギーとして生み出されるもので、普通の人間が発する剄は非常に微弱である。しかし、一部の人間は剄を独自に、大量に発生させる「剄脈」(けいみゃく)と呼ばれる器官を持つ。剄脈はそれを持つ人間の腰の辺りにあり、そこから「剄路」(けいろ)と言う剄の通り道となる管を、神経と並行するように全身に張り巡らせている。特別な呼吸法を行うと剄脈で発生する大量の剄は、剄路を伝って全身に伝播し、肉体のあらゆる能力を強化し、体外へ放出されると衝撃波へと転ずる。このように、生まれつき剄脈を持ち、剄を操り戦う者を総称して「武芸者」と呼ぶ。
武芸者は戦争や汚染獣の襲撃に対する戦力として都市を守る役割を担う存在であり、武芸者の有無は都市にとって死活問題である。大抵の都市は剄脈を持つ子を誕生させ武芸者として教育することを推奨、援助し、優れた武芸者を優遇するため、武芸者には比較的裕福な者、プライドの高い者が多い。無論、武芸者には相応の実力が求められるが、剄脈を持つ人間が産まれるようになったのは汚染物質の蔓延以後と言われており、剄は「汚染された大地で人間が生きるために授けられた天の恩寵」として神聖視される場合が多く、強さのほかにも神聖な力を扱うに相応しい「品行方正さ」が求められることも多い。
両親のどちらかが武芸者であった場合、剄脈を持つ子供が生まれる確率が高く、代々武芸者を輩出している一族もいる。剄脈が剄を生み出す力「剄力」は訓練で徐々に伸ばすことはできるが、大部分は生まれ付きの素質に左右され、後天的に剄力が急激に増すことはほとんどない。しかし、稀に急激な剄力の増加を見せる武芸者もいる。その際、武芸者は風邪と似た症状を見せるが、このときに誤って抗生物質などを服用すると一時的に酔っ払ったようなおかしな反応を見せる。剄脈を持つ人間にとって、剄脈は脳や心臓に等しい人体の急所であり、深刻な機能不全に陥ると死亡する可能性が高い。
ソルジャー ルーツ りゅうき キャリ ニジェール ロック レード ハレルヤ こごた 茶色の小 バックシ タイヤ シホウチ コラン サイレ ジャーキー ハプテン ファースト ハプ くみん ケニア モンバ ギア ルーブル ニサバル 一致団 モザン パゴダ ツーソン カナイマ レツレツ ファイザー レジレソ フリートーク ひらたけ オペラ レソト チェダー レシオ サバト おとぎ ワッペ リップ エピス ハーフメイ モダニ マスツ アデス ディンイン すながわ
剄技
剄を操る技術は「剄技」や「剄術」と呼ばれる。肉体を強化する技術を「内力系活剄」(ないりきけいかっけい)、衝撃波を放つ技術を「外力系衝剄」(がいりきけいしょうけい)と呼んで区別し、基本的な活剄と衝剄を元にした非常に多くの派生技術がある。活剄は全身の強化を基本に、肉体の一部に剄を集中して臨機応変に特定の能力を強化する派生技術が、衝剄は発射点から放射状に広がって飛ぶ衝撃波を基本に、様々な形態の衝撃波を放つ派生技術がある。
このほか、「殺剄」(さっけい)という剄の働きを抑えて気配を消す技術や、「化錬剄」(かれんけい)と言う剄に特殊な変化を加えて駆使する技術もある。念威繰者からもある程度身を隠せる殺剄は多くの武芸者が使い、取り分け隠密行動が要求される狙撃手や射手の必須技術とされる。一方、化錬剄は剄を炎に変えたり分身を作り出したりと変幻自在の強力な攻撃が可能だが、修得が困難で使用者は限られる。
念威操作
剄脈を持つ者の中でも一部の者しか使えない特殊技術。念威操作の適正を持つ者は、剄脈が「念威」(ねんい)と呼ばれる通常の剄とは異なるエネルギーを発する。これは手を触れずに物体を操作し、その物体を介して遠方の物を見たり音を聞いたりすることができるもので、電磁波や赤外線なども知覚できる。これらの能力を利用して広範囲に渡る情報の収集・伝達が可能。修得が困難と言う理由で一部の者しか使わない化錬剄と異なり、使用できるか否かは完全に先天的な適正に左右されるが、この適正を持つ者は逆に活剄や衝剄などの通常の剄技が使えない。
念威の適性を持ち、念威操作を行う武芸者を特に「念威繰者」(ねんいそうしゃ)と呼び、念威での索敵や情報伝達などにより他の武芸者をサポートする役割を担う。念威を使用する際には頭髪や眉毛、睫毛などの一部が燐光を発する特徴があり、この光の強さは念威の強さに比例する。通常の剄技は使えないため、身体能力は一般人とそれ程変わらないが、念威を用いた知覚と情報伝達の速度は通常の武芸者以上[4]。また、念威の媒介となる物質(念威端子)を爆弾として扱う「念威爆雷」と言う技術も存在し、これが念威繰者の主な攻撃・防御の手段となる。
念威繰者は膨大な情報を収集し処理するために生まれつき脳が強靭にできており、一般人や通常の武芸者と比べ記憶力が優れている者が多い。一方、膨大な情報の処理に伴う感情の動きを一々肉体に反応させていては情報処理のスピードが遅れると言う理由から、感情の動きに肉体が反応することをシャットアウトしてしまい、表情の変化に乏しい者も少なくない。
錬金鋼(ダイト)
多くの武芸者は、「錬金鋼(ダイト)」と呼ばれる錬金学によって開発された特殊合金を武器とする。錬金鋼には特定の大きさや形状、性質などを記憶し、同じく記憶した声と剄に反応して一瞬で記憶した通りの状態へと変化する「記憶復元」の特性が備わっており、これにより元の数倍以上の体積や様々な形状、性質に変化することができ、体積や密度が変化すれば重量も変化する。すなわち、掌に収まる程度の錬金鋼を、一瞬にして然るべき形と大きさ、重量を備えた武器に変化させることができる。
この特性を利用して、武芸者は自分が扱い易い武器の形を記憶させた錬金鋼を持ち運び易い「基礎状態」で携帯し、有事の際に記憶復元させて「復元状態」で武器として使う。錬金鋼を復元するための音声を「起動鍵語」または「復元鍵語」と呼び、錬金鋼を復元する際の音声信号には専ら「レストレーション」と言う語句が用いられる。声は勿論、剄も個々人で質が異なるため、錬金鋼は記憶させた声と剄の持ち主しか復元できない。これら、錬金鋼が記憶する情報は専用の機器で記憶、消去、調整することができる。この「武器としての錬金鋼の設定」の調整や、錬金鋼の開発、選定などを専門に行う技師もいる。
錬金鋼は含有する物質の種類や比率などによって性質に変化が生じ、性質の違いによって幾つかの種類に分けられる。錬金鋼の復元状態は技師によって調整されるが、ある程度は素材となる錬金鋼の性質に左右される。錬金鋼の種類と性能差は多岐に渡り、復元する武器や使用する武芸者に最も合った錬金鋼が用いられる。化錬剄を得意とする武芸者は剄に変化を起こし易い「紅玉錬金鋼(ルビーダイト)」、念威繰者は念威の媒体に適した「重晶錬金鋼(バーライトダイト)」、剣術を得意とする武芸者は刃物を復元するのに適した「鋼鉄錬金鋼(アイアンダイト)」など。このほか、頑丈だが重く剄の伝導率が低い「黒鋼錬金鋼(クロムダイト)」、剄の伝導率が高い「青石錬金鋼(サファイアダイト)」や「白金錬金鋼(プラチナダイト)」など様々な錬金鋼がある。